2010年3月26日金曜日

美味礼賛/海老沢泰久

辻静夫の生涯を描いた小説。
彼が自分の食卓に何人かの客を招待するところから始まり、
料理というもの、そしてそれに捧げる人生を、
伝記風に語っている。

辻静夫とはどういう人間なのか、
解説の頁からの又聞きになってしまうが、
少々長いけれども、辻静夫本人の書いたエッセイである
『フランス料理の手帳』
の、文庫版解説から引用しよう。


彼はフランス料理を本格的に移入したサイショの人であつた。
彼が学んだ成果は、
一方では、あべの辻調理師専門学校の卒業生によつて、
他方では彼の著作によつて、
日本のフランス料理を変貌させたし、変貌させてゐる。
(中略)
フランス料理とフランス文明の関係に注目し、
といふよりもごく自然に学び取り、身につけ、
それを我々に詳しく紹介した。
それは葡萄酒や食器、料理屋のたたずまひ、
給仕人の態度、食卓の会話、食後に聞く音楽などにはじまり、
さらには、趣味の社会学、快楽についての人間論にまで至るのだが、
これだけの広い範囲を、
しかも常に料理といふ具体的なものを中心に据ゑながら
語り続けることができるのは、
高い優雅な知性と品格の持主にしてはじめて可能なことであつた。
(後略/改行筆者)

いやはや、
ただただ関心し、そしてお腹がすく本だ。





こういうものを読む度に料理の『味がわかる』とは
一体どう言う事なのだろうと考える。

料理は好きだ。
食べる事も作る事も好きだ。
しかし、私はそういった「本式の料理」というものを、
今までの生涯で食べたことはない。
ただ、本で見知っているばかりである。

ウィークエンド・クッキングのシリーズ、
今は絶版となった
『可愛い女(ひと)へ 料理の絵本お菓子の絵本』、
the Essential dessert cookbook
コルドン・ブルー技巧集、
和食の食器とテーブルセット、だとか、
本ばかりは十も二十も積んであるのだが、
如何せん、日本で、それもごく普通のスーパーマーケットで、
手に入る食材には限りがある。
本の中にある食材が、
きいたこともないようなモノばかりなのだ。
一部の大型百貨店の食品売り場にいけば、
それでも手に入るものもあるのかもしれないが、
私にはその使い道がとんとわからない。
本があっても、味が想像できない。

誰かもっと
この本の群を有効に活用できる人が居るのだろうなあと思う。
まるめろとは何かわかって、ワインの年数が当てられて、
「本物の」「最高級の」料理を食べて味を知っており、
そしてそれが作れるだけの時間と経済力と広い台所のあるひと。
なかなか、ままならないもんだ。

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